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■理学療法アラカルト「転倒予防のための姿勢制御に着目」
未分類2024.08.30
私は通所リハビリテーションや地域の介護予防事業、住民主体のフレイルサポーターを指導するフレイルトレーナーを行なっている理学療法士です。みなさんは「患者様がここまでできれば在宅に戻っても絶対転倒はしない!」と言い切れることはありますか?実際に入院中は転倒がない自立した方でも、退院後に転倒し骨折というケースも少なくありません。在宅では様々な環境の変化に対応していく必要があります。そのため、バランスの評価も患者様のレベルに合わせた評価指標を用いることで介入すべき点が見えてくると思います。今回は、転倒予防のための姿勢制御システムと評価法、介入の考え方などを紹介したいと思います。
●姿勢制御システムと評価法
現場でよく用いるBerg Balance Scale(以下:BBS)は9つの姿勢制御システムのうち、垂直性・反応的姿勢制御・認知的影響を除く、機能的安定性限界・運動器系・静的安定性・予測的姿勢制御・動的安定性・感覚統合の6つで構成されています。しかし、姿勢制御システムの考慮や評価結果を直接介入へ展開する視点なしに開発されたため、評価と介入の間がシームレスではないといわれています。
2009年に開発されたBESTestはシステム理論に基づき姿勢制御を6つの制御システムとして捉えており、各制御システムを反映した運動課題となっています。そのため、バランス障害の問題点を明確にして特異的に介入できる可能性があります。地域高齢者では入院患者と比較してより高度なバランス能力が必要です。そのため、反応的姿勢制御が含まれていないBBSのみの評価では転倒リスクを見落とす可能性があります。しかし、BESTestは項目が27項目と多く臨床で使いづらさがあるため、14項目から構成されるMini BESTestという評価法がおすすめです。この評価では安定限界を除く要素が含まれ、簡易的で使いやすくなっています。安定限界の評価としてはFunctional Reach Testが用いられることが多いため、合わせて評価を行なうことで全体を網羅できると考えます。
●介入の考え方(予測的姿勢制御:APAsと反応的姿勢制御に着目)
みなさんが氷上を歩くとき、当然氷上は滑ると考えるので身体が準備をすると思います。その上で滑ってしまったときは転ばないようにバランスをとるでしょう。この準備の段階の活動をAPAs、転びそうになった時の活動を反応的姿勢制御と呼びます。APAsは随意運動のような身体動揺が予測可能な場合に効果的に生じます。そのため、APAsが出現しやすい状況下での反復練習により動作に適したAPAsが学習されます。APAsを有効に出現させる動作課題の設定が重要です。反応的姿勢制御は、外乱付与バランス練習が効果的です。実環境時の様々な場面を想定した多様かつ複雑な練習で予測不能の不意な外乱が必要ですが、開始初期は恐怖感を与えないように予測できる状況下から練習することをおすすめします。
●参考文献
・森岡周:システムとしての姿勢制御,PTジャーナル Vol.57 ,p256-317,2023.
・村上俊樹 他:地域在住高齢者の転倒リスク評価におけるMini BESTestの有用性,総合リハビリテーション 42巻11号,p1077-1081,2014.